トラウムトレーニング
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  • 15年06月29日

和田昇監督インタビュー「いつでも、どこでも、だれとでも」

 今年4月から旭川で、「TRAUM SV旭川」というジュニアユースチームが始動しました。そして5月には、「旭川校」が復活することとなり、現在旭川市内でチームとスクールが元気に活動をしています。2011年から2013年まで活動していたトラウムトレーニング旭川校は、ヘッドコーチを務めていた和田昇(当時旭川東高校サッカー部顧問)の転勤により、一時休校という形をとらせていただいていました。実際にもう活動を再開することは難しいと思われていましたが、和田が教員を辞することによりそれが可能となったのです。なぜ、その決断にいたったのでしょうか?スタッフがその思いにせまります。

 

 

 

❚ いつでも、どこでも、だれとでも、サッカーを楽しめなければならない

 

――まず、どうしてトラウムトレーニングをはじめようと思ったんですか?

 

これは2011年にトラウムをはじめたときの話になりますが、ずっと高校生の指導をしていて、いろんなことをしてきたけれども、何か上限が見えてきてしまうような気がしていたんです。やっぱり自分の指導を見直してみることも必要なんじゃないかということで、もう一度サッカーの勉強をしようと思っていました。そんな時に、専門委員長で東京に行く機会があって、たまたま(風間)八宏と再会して話をしたんです。八宏は当時筑波大学サッカー部の監督をしていたんですが、「話だけではわからないから、一回筑波に来て下さいよ」と言われて。一週間ぐらい筑波に勉強に行きました。「あ、こういうサッカーがあるんだ」って、見てすぐに、明らかに今まで自分がやってきた指導とは違うということがわかりました。そして、これをやったら子供達はもっと伸びていくんじゃないか!って、自分で直感的に感じたんです。それから八宏と、「旭川でスクールをやろう」という話になったのがきっかけです。だから、はじまりはトラウムっていうよりも、攻撃的なサッカーであり、ボールを中心にして自分たちが主導権を握った方が絶対楽しいよね、っていうサッカーをしたいというものでしたね。もちろんずっと必死でやってきたわけだけど、もっといいものにしていこうということで、踏み出す決意をしました。それで、旭川でスクールを始めることになりました。

 

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――そうやってはじまった旭川でのスクール活動はどうでしたか?

 

これがものすごく勉強になって。やりながら確信を得ていったという感じですね。子供達が本当にうまくなったから。自分の高校サッカー部の生徒にもそうやって指導をしていたんですが、やっぱりその選手達もすごくうまくなりました。それまでよりもっとよくなっていることは自分でもすぐにわかりましたね。在学中は生徒達は、「何でこういう練習やるのかな?」とか思っていた部分もあったみたいですが、卒業してからみんな「やっぱりあれがよかったです。うまくなりました」と言ってきてくれます。今でもスクールやチームの手伝いに来てくれる子もいるんですよ。“育成”と“勝負”というところがよく議論されますが、私はそれは同じだと思っているし、感覚としてはそういう確証の下にトラウムがありましたね。

 

――先生を辞めるというのは大きな決断だと思うのですが、どのようにその決断に至ったのですか?

 

決断をする時に、教員としての任期はあと6年ありました。教員というのは転勤があって、しかも範囲は北海道全域なんです。自分は札幌圏を希望して、そこでサッカーができるところに行けばトラウムのスクールも並行してボランティアで毎日のようにできるかなと思ったりもしました。それでも管理職から「どこに行くかは全くわからない」とも言われていて。極端に言えば、サッカー部の顧問にならない可能性も十分あり得る状態でした。サッカーがない生活を何年もやれるか?って考えた時に、やっぱり無理だと思いましたね。

 

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――和田監督の中でサッカーがそれほど大事だったということですね。

 

例えばですが、女子バドミントン部顧問に配属されたら、それは教員としての喜びであるしもちろん全力で取り組みます。でもそうじゃなくて、やっぱりサッカーで、しかもトラウムという形で活動しながら生きていけたらそれは幸せだろうと。だから全く後悔はありません。むしろ今の生活では、毎日どんな時間でもサッカーのこと、選手達のことを考えていられるので、本当に自分は幸せだと思います。

 

――和田監督からみて、今のSVの選手達はどんな印象ですか?

 

まず、ものすごくサッカーに対して意欲があって、それは本当に嬉しいですね。でも、自分がこれからどうなっていきたいかっていうところが少し足りていないかな、と思うところもあります。サッカーには本当に一生懸命ですが、現状に満足しないで、夢とかそういうものを自分で感じさせられる言葉をかけていこうという風には意識しています。ただものすごく素直で純粋でやる気があって、とにかく自分でボールを触わりたいと思っているので、そういう面では今の段階では最高に良い子達が集まってくれたと思っています。なので先程言った自分の目標という部分をちゃんとして、長い目でみて継続していきたいなと。ただしそれはすぐに言ってできるということではないから、それをどう考えさせるか、っていうのが今の課題ですかね。人間的に成長していくという部分が、サッカーをやるにはないといけないと思っています。

 

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――それはサッカーをやっていく上でとても大切ですよね。

 

そう、絶対大切だし、中学生というのはそれを形成する時期だと思います。高校生なんかは何となく自分の先が見えつつやっているような子もいる気がするけど、この年代の子供達はまだまだ自分で決めてないから、逆にすごく可能性があるとも思いますね。体も柔軟だけど、頭もまだ柔軟な感じがしますよね。

 

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――それでは5月から始まったスクールの選手達はどうですか?

 

スクールにきてくれている子供達は、もっとサッカーがしたい、うまくなりたい、っていうのできてくれているので、やっぱり意欲は高いですよね。現状練習回数は週に1回なのですが、それはそれでいいところもあるんだなとわかってきました。例えば、毎日教えてもらえるっていう感覚だと、慣れもでてきて、吸収する力が弱くなる部分も少なからずある気がするんです。でもスクールの選手達は週に1回だけなんだということで、すごく新鮮な気持ちで毎回来ているように見えます。これがスクールの良さでもあるのかなと思いますね。

 

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――スクールも見学しましたが、みんなのびのびしていますよね。

 

みんな好きなプレーをして、のびのびしてます。当たり前だけど、制約はないですからね。

 

――子供達の可能性は無限大ですね。

 

そうですね。それに、やっぱり「止める・蹴る」といった基礎のところをこの時期にやることは本当に大きいと思います。八宏ともよく話していたけれど、“自分の置き場所”なんていうのは本当に難しいことで、簡単にできるんだったらみんなすごくなってますよね。でも、それもある日突然できるようになるんです。やっているうちに。それは個人個人で違うんですが、ハッと、これなんだと、気がつくときが来るんです。それに気がついてやり始める子がでてくると、もう思うように相手をコントロールしてゲームをやれるっていう状態にもなるし、全く違うサッカーになっていきますね。それは確信しています。

 

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――トラウムは夢という意味ですが、先生の夢を教えて下さい。

 

旭川の子達のレベルがあがる、旭川にサッカー文化ができる、それによって旭川から良い選手が出てくる、というのが私の夢です。この地域でサッカーがもっとさかんになったら、本当に嬉しいですね。そのためには、こういう活動は本当に大切だと思っています。だからやっぱり10年、15年と継続していかないとだめだと思うし、スタッフを充実させていく、体制をちゃんとしていくということが、夢の実現のためには必要になると思います。可能性は、十分にありますよね。

 

特に最近、チームで試合をやっていただく時に中学校の先生方と会話をする機会もあるんですが、やっぱりみなさんあったかいんです。みんなやっぱり熱心だったんだなって、改めて気づかされます。だから私達も一生懸命活動を続けて、見に来てくれる人が増えるとか、切磋琢磨できる人が増えるとか、そういう形で徐々に伝わっていったらいいなと思いますね。

 

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――やっと再スタートを切りましたが、新しいスクールやチームも本当に楽しそうですね。

 

今上手くいってるからといって明日うまくいくかはわからない。逆に今良くなくても、明日良くなるかもしれない。そういった緊張感の中にいるということは、一番幸せなことだと思っています。やりたくてこの道に来ているわけなので。八宏が自分のチームの選手達のことを24時間、毎日考えているのと同じで、私は子供達のことを四六時中考えていて。もちろんレベルは全然違うんだけど、ある意味では同じだとも思うんです。それができるということが、自分にとって幸せなことだと実感しています。

 

――和田監督も本当にサッカーを楽しんでいますよね。それが周囲にも伝わっていくと嬉しいです。

 

言葉として、最近よく思うのは、「いつでも、どこでも、だれとでも、楽しめなければならない」ということですね。それってすごく大事なことだと思うんです。例えば、「止める・蹴る」をどこまでこだわってやっているかとか、小さい子供達とプレーするときに楽しんでやっているかとか、サッカーには全てが絡んでくると思います。どんなことでも楽しめている選手は、やっぱり試合に出ても、プロに行っても活躍している印象があります。サッカーをなめるなんてことはないし、自分で、真剣にうまくなろうと思っていますよね。それは24時間そうだと思うんです。だからどんな練習でも遊びでも、そういう選手たちは本当にうまくなりますよね。

 

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――立ち上げ当初からトラウムに来てくれていた大学生のプレーヤーコーチの中にも、小さい子供とも自由にサッカーをやってくれていた選手が多くいました。けがは絶対にさせないし、ゴールを決めたら普通に喜ぶんです。サッカー少年のままでしたね(笑)

 

相手がどうとかではなくて、同じサッカーを子供とやるだけっていう感覚で、頑張ってるわけでもないんだと思いますね。そういう要素を、指導者が理解して、いいところを大切にできたらいいなと思います。例えば、そうやってエネルギーのある選手は一見扱いづらいと思われることもあるかもしれませんが、「一番いやだなと思う選手が一番力になるんだ」ともよく言いますよね。力を抑え込むのではなくて、そういう熱量のある選手が自由にプレーできるということが本来は大事だと思います。ただ、選手の見極めって簡単ではないですよね。八宏とも、個人をどう見るかっていう話を筑波での監督時代もよくしていました。自分がそうだけれども、声がけとか見極めとか、うまくいかないこともあると思います。でも、全力で向き合って、それの繰り返しですね。

 

――和田監督が筑波大学でプレーをしていた時代は、選手個人が考えて、主導権を握るようなサッカーをされていたとよく聞きます。

 

自由でしたからね。守備はちゃんとしていたけれど、“圧倒して勝つ”ということを常に考えていたんです。しかも、チームがあるようでないのと一緒でしたね。週替わりなんです。それだけ人もいっぱいいましたし、競争して毎週入れ替わる。水曜日にA対Bをやって、そこで良いのが次のレギュラーです。でも誰がレギュラーになるかも、前の日くらいにしかわからなかったと思います。だからみんな、必死でした。八宏なんかはもう絶対的な存在だったけれど、自分はそれでだめだったらもう次はないっていう危機感の下にやっていたので、すごい緊張感でしたね。

 

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――実際にそういうサッカーや経験をしていたことが大きいんですね。

 

やっぱり八宏の自由なプレーを見てきたし、自分たちがずっと主導権を握るサッカーをやっていたということは大きいですね。てきとうに蹴ったら、「なんでそんなてきとうに蹴るんだ!」って怒鳴られるようなサッカーを自然とやっていました。うまい選手を中心に1人1人がちゃんとサッカーをやろうとしていましたね。そこには制約はなくて、それが自分達自身で考えて普通にやっていたサッカーでした。当たり前のものでしたね。振り返ってみると、ボールを大切に考える“普通のサッカー”をやっていたんだなと。だから社会人とか、日本リーグにも勝っていたんだと思いますね。ゲームをやると、ほとんど圧倒していました。

 

――個人がすごく考えてサッカーに向き合っていますね。

 

長年指導をしていますが、サッカーが普及したから体制も整備されて、いろんな知識とかが入ってきていますね。それはとても素晴らしいことだと思いますが、ボールで遊ぶのが楽しい、負けたくないっていうのが原点だとやっぱり思うので。そういう気持ちで戦っていただけですね。そういった当たり前のことはずっと大切にしていきたいと思うし、難しいことではないと思います。だから監督になっても、昔から試合中なんかは、何もしていないかもしれません。「丁寧にやれ」とか、「集中してやりなさい」とか、シンプルなことしか言っていないかも(笑)

 

 

 

● 和田 昇 (わだ のぼる) PROFILE


筑波大学蹴球部で活躍。風間八宏は同部の後輩にあたり、トップチームで共にプレーした。北海道内高校サッカー指導の第一人者のひとりで、高体連サッカー専門部委員長を務めていた。風間との再会後、トラウムトレーニングの指導法に共鳴し、その指導を学ぶ。2011年から2年間トラウムトレーニング旭川校のヘッドコーチを務めた。2015年よりトラウム専属の指導者となったことにより、旭川校が再始動。同時に新設したTRAUM SV旭川(ジュニアユースチーム)の監督を務める。

 

 

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